2015年11月1日日曜日

SPレコード 堀込孝一(ビエントス)

秋の夜長にふさわしくアナログ・レコードの話を・・・。
フォルクローレに親しむ以前は、ジャズ・ボーカルを主に聴いていた。
それも1940年代~50年代というアメリカの古い録音が中心だった。
CDだけでなく、LPも多少は所有し、現在も気が向いた時には針をおとしているが、LPの他にもシャレ程度に「SPレコード(SP盤)」も所有している。
一般的なSP盤は、10インチ(25cm)の盤に各面1曲が録音されている。回転数は、1分間に78回転。ステレオという概念が無い時代、当然、モノラル録音である。
私の普段使いのレコードプレーヤは、33回転と45回転のみだから、SP盤はかけられない。そのためSP盤を聴く(試聴)ためだけに安い3スピードのポータブル・レコード・プレーヤーも使っている。
この安いポータブル・レコード・プレーヤーでも、SP盤を聴くには、オプションのSP盤専用針が必要である。しかし、所詮、ポータブル・レコード・プレーヤー。その音はあまりにも浮ついた印象で、軽く浅かった。針圧も調整出来ない。音飛びしそう。盤を痛めそう。
持っているSP盤は、ほとんどLP化・CD化されているので、SP盤をわざわざ聴く必要性は皆無であると感じつつも、せっかくなのでSP盤を聴くための現代的で安価なサブ・システムを導入してみることにした。
本当なら、SP盤の時代の最高の蓄音器を、完全にメンテした状態で購入するのが一番手っ取り早いが、鼻からそんな情熱は無い。しかし、せめて、SP盤とLP盤を、カートリッジを交換して聴く最低限のシステムというのがコンセプト。
アンプとスピーカーは、「BOSEのAW-1」というラジカセを使用。これは、カセットが故障しているジャンク品を安く買って、ラジオとしてたまに使用している物を活用。ラジカセと言ってもCD等の外部入力端子もあり意外と便利で、しかも、音は中低域が張り、まとまりが良い。7~8年前に購入、五千円位だったか。
そして、現代のレコードプレーヤーで78回転があるのは(予算の範囲で)、やはり3スピードのプレーヤーであり、数年前に倒産したVESTAXのというDJ関連メーカーの「BDT-2500」をチョイス。ヤフオクで2千円台でゲット。これは、PHONO端子接続と通常のLINE端子の接続の切り替えが付いているので、PHONO端子の無いAW-1にも使用可能である。
肝心のカートリッジであるが、SP盤専用のカートリッジは、安くても数万円もする。そこで検索すると、JICO(日本精機宝石工業株式会社)というメーカーでSP盤用交換針が多数ラインナップされており、通販で買える。なかでも世界的な音響メーカーであるShureのカートリッジ用の交換針にSP用も多数用意されている。ShureのカートリッジにJICOのSP用交換針を組み合わせることにした。
何年か前のDJブームではShureのカートリッジが多く使われていたが、そのためか地方のハードオフあたりでも、Shureの中古カートリッジは比較的簡単に手に入る。DJでは定番とも言えるテクニクスのヘッドシェルが付いたShure・SC35C(MM)が程度良さそう、ということで購入。3千円位。これは、トレース・ミスが少ないという点で、アメリカの放送局でも使われることもあるらしい。これの交換針として「JICOの交換針SS-78E」を発注。3千円強。
LP用には、同様にShureの定番M44シリーズから、あえて定番人気のM44Gを外して、SC35Cに構造が近いM44GXを選択。これはヤフオクで2千円程度と安さに引かれたから。これにもテクニクスのヘッドシェルが付いてきた。
さあ、聴くぞ!と思ったが、ここで思わぬ問題が、JICOのSC-35CのSP用針(SS-78E)の針圧が3.0~4.0g。これに対してM44GXの針圧が0.75~1.5g。この2つのカートリッジを交互に使うには、各針圧の調整が必要であり、その前提としてその両者の針圧をある程度正確に管理する必要がある。
予定外だが、ここで、新たにデジタル針圧計を導入することとなった。これは、ちょっとしたDIYを含め、1千円程度に収めた。
やっとこれで聴けるぞ!と試聴。こんなシステムでも、SP盤は、ノイズの中から大らかで、かつ、臨場感のある音を楽しめる。CDなどの現代のソースでは、BASSを効かせて聴きたいところだが、SP盤では、レンジが狭いのかナチュラルなノーマルモードの方が聴きやすいと感じた。
正直もっと良いシステムで聴いてみたいという気持ちも湧きあがる。
しかし、音は別として、SP盤は、いかんせん片面3分程の演奏時間である。ゆったり聴いてはいられない。針の上げ下げにも緊張感を伴う(BDT-2500の操作は、すべて手動になります)。曲の初めから終わりまでイヤでも集中して、緊張して聴くことになる。
SP盤からLPへ変わった時代に遭遇した人は、LPがいかに音楽をゆったりと楽しめるものだと感じたことだろう。また、CDの時代になり、さらに音楽は便利になった。
ましてや、今は音楽をダウンロードして聴く時代だ。
しかし、ダウンロードした便利な音楽も良いが、SP盤を聴くというのは、より贅沢な行為であると予感した。
とはいえ、SP盤再生もこだわればキリがない。やっとスタート地点といったところだが、とりあえず、今は、この程度で止めておく。
なお、私の母の実家は宝飾加工業者であり、戦時中、国からの依頼で水晶(系)のSP盤用の針を特別に加工し納品していたという。一般的にSP盤は「鉄針」で聴く。いったいあの時代、誰が水晶針を使っていたのか。