「いい音とは何か」三澤 常美(ビエントス、チャランゴ)
「誰がヴァイオリンを殺したか(石井宏著)」の中でストラディバリウスを含めたクレモナの銘器の音色を、一般の楽器と比べて、どうなのかと問うている文章がある。
日本人の言う「音が良い」と言う表現は、西洋人にとってはなんのことか分からない。
彼らが使う音響特性の評価にはsonorityとかresponse、resonanceと言う言葉が主であると言う。
楽器が弓に敏感に反応する、良く鳴り響くことを指している。
木材の繊維が音に共鳴して響きが形作られ段々と反応が良くなり、年月と共にやがてピークを過ぎていく。
そう言う意味では、高名の演奏家の使った楽器ほど音は弱っていると言われ、良い楽器を選ぶなら貴族や修道院の死蔵されていた期間の長いものを選ぶべきだと言う。
また、ある人が楽器をしばらく使っていると、楽器はその人の音になってしまうという。
「このピアノは弾きこんでいないので、弾きこんでもらうといいですよ。」と言った会話はよく聞かれる。
ピアノのように猫が歩いても音がする楽器でさえ、弾く人によって全く違った音がするなら、修練しないといい音を出すのも難しい管楽器では、楽器の個性よりも吹き手の個性が音となって聞こえてくる。
で、話はヴァイオリンに戻り楽器としては最もデリケートで大枚をはたいてストラディバリウスを買った人物が結局、自分の音しか聞こえて来なかったと言う話を紹介している。
また、追い討ちをかけるように、クレモナの巨匠の「ヴァイオリンに固有の音などなく、全て弾きての音なのである。」と言う言葉に著者の目からウロコが落ちる。
アンドレス・セゴビアのギター演奏を初めて聴いた人は、これが同じギターなのかと思うほど柔らかくて甘い音色に驚くだろう。
そこで管楽器であるケーナを色々いじっていると、材質による音色、倍音成分の違いや指穴の大きさや位置、歌口の形状で音が左右されるのに気が向いてしまうが、いい音を出すのは吹き手の技量や個性であると言うのが今回の結論である。